お盆になると、仏壇店やスーパーの店頭に「真菰(まこも)」と書かれたゴザが並びます。なぜお盆に真菰を用意するのか、由来を知らないまま毎年なんとなく飾っているという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、真菰がお盆で使われるようになった背景と、盆棚(精霊棚)での具体的な使い方、購入時の選び方や片付け方までをまとめました。
真菰はイネ科マコモ属の多年草で、水辺や水田に生える植物です。古くから神が宿る草として扱われ、しめ縄や茅の輪、祭事の敷物などに使われてきました。食用としては、真菰の若い茎にできる「マコモダケ」がよく知られています。
真菰そのものと、真菰が黒穂菌に感染してできるマコモダケは、収穫時期も用途も異なります。詳しい違いは基本解説記事で紹介していますので、ここではお盆での使われ方に絞ってお伝えします。
真菰は古くから聖域や神聖な空間を作るための植物として扱われてきたと言われています。島根県の出雲大社では、毎年6月1日に「凉殿祭(すずみどのまつり)」という神事が行われ、これは別名「真菰の神事」とも呼ばれています。
参道に敷かれた真菰の上を神職が祝詞を奉持しながら進み、その後、敷かれていた真菰を参列者が受け取って持ち帰る習わしがあります※1。受け取った真菰を風呂に入れると無病息災のご利益があるとされ、田畑に埋めて豊作を願う地域もあるようです。
こうした「真菰=清浄な聖域を作る草」という位置づけが、お盆で先祖の霊を迎える盆棚にも受け継がれたのではないかと考えられています。
古い書物にも真菰の記述が見られると言われており、日本人の暮らしと真菰が長く結びついてきたことがうかがえ、乾燥させた真菰はゴザや枕、かやぶき屋根の材料としても使われ、衣食住のあらゆる場面で活用されてきた植物です。
お盆は正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」といい、サンスクリット語に由来するとされています。お盆の期間が終わると、真菰で編んだ小舟を作って川に流す風習があった地域もあるようです。市販の真菰ゴザに「耳あり」タイプ(サイドの繊維を切り落とさないもの)があるのは、この舟の形の名残とも言われているみたいです。
真菰の最も一般的な使い方が、盆棚に敷くゴザです。盆棚には主に2つのタイプがあります。
ひな壇タイプ:仏壇前に2〜3段の棚を作り、一番下の段に真菰を敷いて蓮の葉を置き、季節の果物などをお供えする
一枚板タイプ:板の四隅に葉付きの青竹を立てて支柱にし、板の上に真菰のゴザを敷く
蓮の葉の上に先祖の魂が宿ると言われており、その土台となる盆棚に真菰を敷くことで神聖な空間を整える、という考え方です。
乾燥させた真菰を縒って作る「真菰縄」は、しめ縄のように盆棚の四隅の青竹の上部に張ります。これによって盆棚とその外側を区切る結界の役割を果たすとされています。縄の網目にほおずきや果物を挟んで吊るす飾り方も一般的です。
キュウリやナスで作ることが多い精霊馬・精霊牛ですが、真菰でも作ることができます。真菰を束ねて胴体・脚・頭の形を作り、紐で固定して布飾りをつければ完成です。手作りが難しい場合は、完成品として販売されているものもあります。
実際に在来種の真菰を田んぼで育てていると、夏の盛りに緑の葉が水辺で群生している姿を見ると、この植物が「涼」や「清らかさ」の象徴として扱われてきた理由が実感としてわかる気がします。
お盆で使う真菰ゴザの多くは、収穫後にしっかり乾燥させてから編み上げたものが多く。生産の現場では、刈り取りのタイミングや乾燥の具合によって色合いや香りが変わるため、一つとして同じ表情のゴザはないように感じます。
毎年同じように見えるお盆飾りも、実はその年ごとの真菰の育ち方が反映されていると思います。
真菰のゴザはお盆の時期になると、仏具店やホームセンター、スーパーの季節催事売場などで購入できます。インターネット通販でも、精霊馬や真菰縄、オガラなどとセットになった商品が多く販売されており、1,500〜4,000円程度が目安です。
耳あり/耳なし:サイドの繊維を残したものが耳あり、切り落としたものが耳なし。下に敷くだけであればどちらでも問題ありません
サイズ:盆棚の大きさに合わせて選ぶ。真菰縄も150cm〜600cmなど長さのバリエーションがあります
産地・栽培方法:真菰は在来種とマコモダケ用の品種で性質が異なります。どちらの真菰から作られたゴザかを確認すると、産地や栽培背景にもこだわった選び方ができます
お盆が終わったら、真菰のゴザや縄はほこりを水拭きし、しっかり乾燥させてから防虫剤・乾燥剤と一緒に箱に収納すると、数年間繰り返し使えることもあります。直射日光を避け、湿気のこもらない場所での保管がおすすめです。
汚れや傷みが激しい場合は、菩提寺に依頼してお焚き上げしてもらうか、塩でお清めしたうえで白い紙に包み、一般ゴミとして処分する方法もあります。真菰は天然素材のためカビが生えやすく、お供え物を直接置く場所でもあるため、清潔な状態を保つことが大切です。
真菰が手に入らない場合は、白い布やテーブルクロスで代用しても問題ないとされています。お供え物だけを置き、ゴザを敷かない家庭もあるようです。また、真菰を敷く習慣は浄土宗や曹洞宗などの宗派で見られる一方、浄土真宗ではそもそもお盆の供養自体を行わない考え方があるなど、宗派によって作法が異なります。
地域や菩提寺の慣習に合わせて準備すると安心です。
正確な起源を特定する一次資料は確認できていませんが、真菰が神事に使われる神聖な植物として古くから扱われてきたことと、お盆で先祖の霊を迎える盆棚に「清浄な空間」を作る役割が結びついたと考えられています。
お盆期間の終わりに真菰で小舟を作って流していた名残とも言われており、耳ありは舟の形を残したもの、耳なしは切り落としたものです。盆棚に敷くだけであれば機能的な違いはありません。
できます。白い布などで代用しても問題ないとされ、地域や宗派によっては真菰を使わない場合もあります。形式よりも、先祖への感謝と供養の気持ちを大切にすることが重視されています。
真菰は、神事で用いられてきた神聖な植物としての歴史を背景に、お盆の盆棚(精霊棚)を清める役割を担ってきました。ゴザとして敷くだけでなく、真菰縄で結界を張ったり、精霊馬・精霊牛を作ったりと、使い方はさまざまです。今年のお盆は、真菰の由来にも思いを馳せながら、先祖を迎える準備をしてみてはいかがでしょうか。